ソフトウェアの国際化 - その2
代官山のバッカスです。前回に引き続き、ローカライゼーションのお話です。
いきなりですが ATOK で「ろーからいぜーしょん」と入力して変換すると「ロー、辛いぜー、ション」と出てきます。「ション」とは何なのか気になるところですが、ローカリゼーションは一発で変換できるので、この表記の方が本当は正しいようです。さらに余談ですが ATOK は Alpha To Kanji の略ということになっています。これが実は「阿波(A) 徳島 (TO) かな漢字 (K)」の略語だという説があります(浮川さん、ごめんなさい)。
さてソフトウェアの国際化を果たしてヨーロッパに進出したアメリカ企業は、まずはメジャーな言語に翻訳をすることになります。最小の労力で最大のマーケットをカバーするためには、とりあえずドイツ語、フランス語、イタリー語、スペイン語あたりからスタートしたものです。これらを FIGS(フィッグス)と略しました。
頭文字を並べて略すのは洋の東西を問いません。「水兵リーベ(周期律表)」や「妻子異国に(円周率)」、「鮒一羽二羽(自然対数)」と同じです。経済成長著しい国のリスト、BRICs(Brazil、Russia、India、China)とか、それを追い上げる VISTA(Vietnam、Indonesia、South Africa、Turkey、Argentine)なんてのもあります。
FIGS とは実はうまい略語で、英語の「not worth a fig(何の役にもたたない)」という言い方を連想させるのです。その複数型でメジャーな翻訳言語を表すなんて、いいセンスじゃないですか。
その後ポルトガル語を加えて P-FIGS(ピーフィッグス)になりますが、「ピー」という音は英語圏の人間にとって「ション」と同じ語感があるので定着しませんでした。ポルトガル語版の実際のマーケットはイベリア半島(ヨーロッパ、イベリコ豚の産地)じゃなくてブラジル(南米)だっ!、と BFIGS に改名して定着した次第です。
中南米は大航海時代にポルトガルやスペインに植民地化されたので、これらの言葉が定着したわけですが、時を経るにしたがって言葉は分化してきました。ポルトガル語は Iberian Portuguese と Brazilian Portuguese の二つに分かれ、「ブラジル語」という言い方すらされるようになっています。津軽言葉と熊本言葉が、津軽語と熊本語という名前を持つようになったようなものです。
単語レベルでもヨーロッパと中南米は違いまして、computer のことを中南米では「コンピュータ」、ヨーロッパでは「オルテナドール (計算機)」と呼びます。Mouse が中南米は「マウス」、ヨーロッパでは「ラトン (鼠)」になります。もっとも最近は逆輸入で、ヨーロッパでも「コンピュータ」「マウス」と呼ばれるようになりつつあるようにも聞いています。
余談その3:アメリカにボカ・ラトンという地名があります。あれは料理の「サルティン・ボッカ (口に飛び込む)」の「ボカ=口」と「ラトン」で、鼠の口の形をした湾からきている、という説を聞いたことがありますが、真偽や如何。
そうこうしているうちに、国際化は儲かるぞ、ということになりまして、アメリカのソフトウェア会社はこぞって売上に占める海外の比率を競うようになりました。国内依存ではジリ貧になるぞ、ということで国際化に遅れたソフトウェア会社の株価は、どんどん下がっていったものです。
当然 BFIGS の次はどこだ、という議論になります。他の国は一国あたりの市場規模がそれほど大きくなく、モトが取れるかどうかで散々もめたものです。データの改竄/捏造や地元の誘致 (翻訳してくれたら沢山売れるよ〜)、脅迫(翻訳がないと撤退せざるを得ない)も絡んで、一時は収拾のつかない騒ぎになったものです。
結局落ち着いたのは、ddnsf、chpr、GrTu の11カ国語でした。ddnsf はオランダ (Dutch)、デンマーク、ノルウェー、スエーデン、フィンランドの北欧諸国。chpr は「チッパー」と発音してチェコ、ハンガリー、ポーランド、ロシアの東欧圏。GrTu はギリシア語とトルコ語です(文字処理に一ひねり必要なので別扱)。
(ちなみに ddnsf とかけて、4軸ディーゼル機関車のデータベースファイル、と解いた貴方、相当ニッチです。C57 と DC8 とかけて、何と解きます?)
BFIGS は全部大文字ですが、ddnsf を始めとする言語群は小文字です。某社内では最優先で全部翻訳をする言語をグループ1,次のレベルをグループ2、特別のことがない限り翻訳をしない言語をグループ3と呼んでいました。B(P)FIGS と CJKT (中日韓台) がグループ1で大文字。ddnsf 以下はグループ2で小文字の扱いです。GrTu や Th(タイ語)は G2 と G3 の間を行ったり来たりしていましたね。
かつてバッカスは翻訳言語の一覧をさらさらと言って感心されたものですが、実は略語を唱えていたにすぎません。円周率を35桁 (妻子異国に婿、産後厄なく産児み社に、虫燦々闇に鳴く頃にや) 唱えるのと同じことです。何の役にもたちません。
そろそろ酔いが回ってきたのでバッカスは寝みます。次回もしつこく国際化。今度はいよいよダブルバイト。それではまた。






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