暑い。とにかく暑い。こういう時には怖い話を。題して「カスタマーサポートの怖い話」。
古い話で恐縮だが、5インチフロッピーが全盛の頃に、カスタマーサポートを預かっていたことがある。5インチフロッピーとは正確には 5.25インチフロッピーディスクと言い、ペナペナの円盤状の磁性体を堅紙のケースに収めたものである。
怖い話その1:新人に「このディスクのコピーを取ってください」と頼んだら、コピー機でラベル面のコピーを撮ってきた。確かにきれいにコピーされていたのだが、そうではない。
「空のディスクに、diskcopy コマンドで内容をコピーしてください」と言い換えると「空のディスクが見つかりません」とくる。苛ついてきたので「とにかくどっかにあるはずだから、まずは探して持って来い」と言う。
新人君は、ここで空のディスクが見つからないと沽券に関わると思ったのであろう、そこらへんにあったディスクのケースを密かに開けて磁性体を取り出し、意気揚々と、「ありました、空のディスク」と叫んだものであった。
怖い話その2:お客様から電話が入る。前はちゃんと動いていたのだが、突然うまく動かなくなったと言う。「最近何か環境設定を変更されましたか?」お客様はしばらく考えて「そういえば最近エアコンの設定温度を変えた」。
別のお客様から電話が入る。データが壊れるらしい。当時メモリーボードで問題が頻発していたので、早速「何かボードはお使いですか?」と聞いてみる。お客様曰く、「キーボードを使っています」だそうな。
怖い話その3:当時の製品は5枚ぐらいのフロッピーディスクに入っていた。インストールをするとディスク2で I/O エラーになると言う。不良品かと思い、早速、換えのディスクを発送。また駄目だと言う。念の為にディスクを全部交換して、電話口で確認しながらインストールをしてもらうことになった。
「ディスク1を入れてください」
「はい、入れました」
「install C: とタイプして、リターンを押してください」
「はい」
「どうなっていますか?」
「カチャカチャ音がしています。あ、画面上に「ディスク2を入れてください」と出ました」
「ディスク2を入れてください」
「はい。うーん、よいしょ。入りました。画面はそのままです」
「ではリターンを押してください、どうなりましたか?」
「はい、あ「I/O エラーです」と表示されました、前と同じです」
「うーむ、おかしいですね。ちょっとディスクを出してみてください」
「はい、どちらのディスクを出しますか?」
「?????」
5インチのドライブには、むりをすれば2枚のディスクを押し込むことができたのである。このお客様は指示を正確に守ったことになる。

Wikipedia より
この手の話は、その筋ではかなり出回っていた。ありそうな話や怪しげな話もあったが、ある程度蓄積すると、冗談では済まなくなってくる。
マニュアルには「ディスクをコピーして」ではなく、「未使用の 5.25 インチフロッピーディスクを袋から取り出して下側のドライブに入れ、format b: とタイプして、待ちます。C:> という文字が画面上に出たら、製品の 5.25 インチフロッピーディスクを箱から取り出し、袋から出して上側のドライブに入れ、diskcopy a: b: とタイプしてください」などと書くようになる。
もちろん、インストールの章では「ディスク1をドライブから取り出して袋に収め、ディスク2を袋から取り出してドライブに挿入してください」である。かくして500ページを超える、使い物にならないマニュアルが完成する。
カスタマーサポート症候群と呼んでいる現象がある。1000人のユーザーが居るとして、990人は幸せに製品を使っている。定義により、この人たちはカスタマーサポートに電話をかけてこない。残りの10人は、定義により、何か問題があって電話をかけてくる。この 10人の部分だけを聞いていると、100%のお客様が不満を持っているように見えてしまうのである。
これを見てサァ大変だ、と 500ページのマニュアルを作ったり、余計なお世話の新機能を満載したりすると、この10人は幸せでも(おそらくそれでも5人ぐらいはまだ不満)、残りの幸せだった 990人のお客様を無くしてしまうことになるのである。
この方がよっぽど怖いと思うのだが、どうだろうか。
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