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プロフィール

吉岡 弘隆 - よしおか ひろたか

日本OSS推進フォーラム ステアリングコミッティ委員
OSDL Board of Directorsを歴任
カーネル読書会主宰

2000年6月、ミラクル・リナックスの創業に参加。
95年~98年、米国OracleにてOracle RDBMSの開発をおこなっていた。
98年にNetscapeのソースコード公開(Mozilla)に衝撃をうけ、オープンソースの世界に飛びこみ、ついには会社も立ち上げてしまう。
2008年6月取締役CTOを退任し一プログラマとなった。

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ウェブ人間論


「ウェブ人間論」はベストセラー「ウェブ進化論」の著者梅田望夫と芥川賞作家平野啓一郎の対談である。

「君、平岡の所へ行ってね、せんだっての手紙は御覧になりましたか。御覧になったら、御返事を願いますって、返事を聞いて来てくれたまへ」と頼んだ。

夏目漱石「それから」273頁(角川文庫)

「それから」の主人公「代助」は書生の門野に友人平岡に出した手紙の返事を聞くために使いに出す。今から約100年前のコミュニケーションの手段は手紙であったが、それの確認に「書生」を使いに出す。

なるほど、コミュニケーションの手段は変った。人間のいとなみはネットによってどれだけ変化したのか。変化しうるのか。対談はそれに対する回答を試みようと行われた。

例えば文学者(平野)が本能的までに著作権についてナイーブな意見を表明し、コンサルタント(梅田)が近未来では紙の形式の本がなくならないだろうという見解を表明する。技術を過大評価すると文学者になり、そうでないとコンサルタントの意見に収斂するとわたしは思う。ラッダイトが機械を打ち壊したように文学者はテクノロジを恐れいななく。

『「ウェブ進化」によって、今、世の中はどう変わりつつあるのか、そして、人間そのものがどう変わりつつあるのかということへの素直な関心があったからである。』と平野ははじめにで記している。「ウェブ進化」によって人間そのものが変わりつつあるというナイーブなまでの前提がそこにはある。

なるほど、日々の生活という意味での変化は激しい。ビジネスもライフスタイルも劇的に変化したであろう。しかし、人間が人間であるということ、わたしがわたしであり、あなたがあなたであるというありようが、たかが一つのテクノロジでそれほど劇的に変容しうるのか?その前提に対する疑問は残念ながら平野の設問からは見えてこない。

100年まえメールもインターネットも存在しなく、電話ですら市民には一般的でなかった時代においてのコミュニケーションの手段は劇的に変容したことは疑いない。しかし、人が人として生きるとき、誰かを好きになり、誰かを傷つけ、誰かに依存するという人間としてのありようにどれほどテクノロジは影響を与えたのか?

「それから」の主人公代助は現代にもいるし100年前にもいた。

「ウェブ進化論」が今まさにインターネットに起こっていることについてテクノロジーないしビジネスの観点からコンサルタントとしての梅田が渾身の一撃をみまったものとすれば、「ウェブ人間論」はそのテクノロジが人間にどのような影響を与えうるかという設問に対する議論という形になっている。

作家は文学という道具を使ってそれに対する回答を提示することを試みる。

オープンソース思想というものを外延しようとするが、そこの本質まで残念ながら踏み込めていない。人間を深く理解しない限り、「ハッカーはなぜプログラムを書くのか」を理解することは難しい。インターネットが可能にしたことは、世界中のハッカーを結線したことであるが、「ハッカーがなぜプログラムを書くか」という動機に対して、インターネットが果たした役割はあまりに小さい。ハッカーが活躍する場をインターネットが提供したことは紛れもない事実ではあるが、「なぜプログラムを書くか」という問いに対する答えは見出せない。

プログラマはプログラムという道具を使ってそれに対する回答を試みる。

人間がそれほど急激に変容しないのであれば、「シリコンバレー的なるもの」を日本という地域に移植するのは困難を極めるであろう。一方で平野が想像するようにウェブがそれほどまでに人間に変容を要求するのであれば、それはわたしが想像する以上に簡単なのではないかと思う。

しかしそれに対する回答をわたし自身もまだ十分納得する形で整理しきれていない。

ハッカー・エシックスが日本で過小評価されているという状況が少しでも変わりうるのならば、「僕は、リアル社会の中にも、彼らが生きていきやすい場所を、日本でも作りたいと思っているんですよ。そのほうがリアル社会でもハッピーになれて、しかも才能を発揮出来る人が山ほどいるはずですからね。」(196頁)ということの可能性は十分あると思う。

ミラクル・リナックスという会社を作ったわたしのそもそもの動機は、そのような価値観を大事にする会社を作りたかったのである。そしてそれを社会に認めさせビジネスとして継続するという実験をしてみたかったからである。

わたしはその意味で半分楽観し半分悲観している。インターネットやオープンソースはそれを後押ししてくれるのではないかという期待感が半分、人間のありようはそう簡単には変容しないのではないかという感覚が半分なのである。

オープンソースの思想は、2001年頃、梅田が記したように「資本主義に飲み込まれた」というほどヤワではなかった。しかし、日本という地域でその思想が十分理解されていないというのも厳然たる事実である。微力ながら、ビジネスと言う方法論を使いつつ焦らず慌てず淡々と理解者を増やしていくしかないというのがわたしの現時点での立場である。

シリコンバレー精神・ユメのチカラ
http://blog.miraclelinux.com/yume/2006/08/post_a196.html

ちなみに新潮文庫版や岩波文庫版ではなく、角川文庫版を選んだのは本屋で立ち読みをして、比較検討したからである。テキストという意味であれば青空文庫で全文を読むことができるが、文庫本の手軽さにはかなわない。


『ウェブ人間論』、ついに刊行!!/平野啓一郎公式ブログ

http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/20061214/1166084120

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コメント

「技術を過大評価すると文学者になり、そうでないとコンサルタントの意見に収斂するとわたしは思う。」のご意見にはとても納得できました。
技術を正確に見極めると遠い未来に関する空想でない近未来が見えてくるという事ですね。

ふくちゃんさん、コメントありがとうございます。また、トラックバックありがとうございます。

平野氏はウェブが人間の根源に変化を与えるという前提で議論を進めていますが、その前提そのものを疑いたかったというのがわたしの立場です。

一方、技術に対する連続的な変化はある程度は見通せますが、非連続な変化を見通すのは大変難しいと思います。

極論すると、非連続な変化の先を文学者がその創造力によって構築してほしいなあなどと無責任に期待しています。

はじめまして!こんにちは!
内容がとても興味深かったので、記事掲載させていただきますm(__)m

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