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プロフィール

吉岡 弘隆 - よしおか ひろたか

日本OSS推進フォーラム ステアリングコミッティ委員
OSDL Board of Directorsを歴任
カーネル読書会主宰

2000年6月、ミラクル・リナックスの創業に参加。
95年~98年、米国OracleにてOracle RDBMSの開発をおこなっていた。
98年にNetscapeのソースコード公開(Mozilla)に衝撃をうけ、オープンソースの世界に飛びこみ、ついには会社も立ち上げてしまう。
2008年6月取締役CTOを退任し一プログラマとなった。

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企業発OSSのコミュニティアライアンス戦略

先日のTOMOYO Linux Nightをカーネル読書会で共催(?)させていただいた縁でいろいろ企業とOSSのかかわり、コミュニティとのアライアンスなど考えるきっかけを頂戴した。ありがたいことである。

昔からLinuxとかフリーソフトウェアが好きでずうっとやっていたFLOSS界の長老(20世紀のころからLinuxをいじっていた人々)と、会社の中でいろいろなしがらみ障壁を乗り越えがんばって来た方々とではFLOSSに対するスタンスや思いというのがかなり違うという実感がある。

OSSが豊かに健全に成長するにはビジネスの力が絶対に必要だという立場にわたしは立つのであるが、もちろんそうでない立場の人もいることは理解している。結果としてオープンソースやフリーソフトウェアが広まればフリーソフトウェアの人達にとっても悪いことはないと思うのだが、今回はそこには触れない。

企業のサポートによって開発されたOSSをどのように普及推進するかというのが今回の命題である。コミュニティはそれをどのように支援できるのか、できないのか、すべきなのか、すべきではないのか、双方にとってメリットのあるアライアンスの形態はどのようなものになるのかならないのか、というのが今回の問題である。

コミュニティと言うのは企業とか個人とかと異なり目に見えない曖昧な実体なのであるが、ここでは定義については踏み込まない。

バザールモデルは定義により、コアとなるソフトウェアを誰かが作って、それは個人であってもいいし企業であってもいい、それを不特定多数の善意のボランティアがよってたかって改良していくというソフトウェア開発モデルである。ここでボランティアというのはその活動によって収入を得ているか否かではなく自発的な意志によってその活動に参加している人のことを差すことにする。

コアとなるソフトウェアが個人によって開発されたものであれば、その開発の継続性はオリジナルの開発者の意志や情熱に依存する。そのソフトウェアの機能に注目し利用者が増えそのソフトウェアに共感した第三者があらわれればパッチを作ってくれるかもしれない。バザールが発生する瞬間である。

企業発のソフトウェアの場合、開発の継続性は企業の支援に依存する。スポンサーがいなくなれば失速する可能性が高い。たとえそのソフトウェアのアイデアが企業に属する個人によって生まれたとしても、それを実装するコストは企業が負担している以上、その個人の情熱だけでは継続するのは難しい。

企業内ハッカーの場合、社内のスポンサーというか金と権限を持っているパトロンが絶対必要になる。企業の研究所の場合、即事業化できなくても(売上がすくたたなくても)、別の名目で開発をおこなうことはできなくはないが、それも将来的に事業に結びつかないと評価されると継続することはできない。

日本にはOSS専業ベンダーというのが、少ないので(われわれもがんばらないといけないのだけど)、OSS専業ベンダーに就職して思う存分コードをハックするというめぐまれた環境にいる人はほとんどいない。

ビジネスとOSSの関わりでいうと企業規模が大きいところでオープンソースを将来の投資としておこなっているというのが大半(?)かなと思う。国内ハードウェアベンダーだとハードを売るためという大義名分がたつので、それでもカーネルやミドルウェア分野で開発めいた事ができるが、SIerだとそれもなかなか難しいというのが実状である。

それを理解した上でコミュニティは企業内ハッカーをどう支援できるのか?そもそもそんなことは可能なのか?

例えば、わたしがどこどこ社の偉い人に直談判してオープンソースを開発しているXXさんを支援してくださいなどとお願いにいけばうまくいくのか。1998年のNetscape社の取締役会はEric Raymondを呼んで「バザールモデル」について議論して、ソースコードの公開方法などを決定したそうだから100%不可能とは言えないが、宝くじを買うより確率は低そうな話である。(ちょっと考えにくいが不可能ではないかもしれない)

まあ、日本OSS推進フォーラムのような偉い人の集まりに行って一般論として企業のOSS支援についてなどと語ることは不可能ではない。

Web2.0系のネットベンチャーは皮膚感覚でOSSを利用しているし、コミュニティの重要性も理解しているので、上のような苦労はないが、伝統的な日本の大企業の偉い人を動かすには、それなりのお作法が必要である。

結局のところ企業の利益に貢献しなければOSSの開発も持続できない。利益は売上から経費を引き算して生まれるから、当該OSSを利用してSIやコンサルなりなんなりして稼ぐという方法(売上を増加させる)と、開発コストを下げる方法のあわせ技になる。

OSSのコア開発者がいるという事がある種の宣伝広告になるという立場で、ゼロ円で宣伝ができている、すなわち宣伝コストを低くできたといような方便も時には必要である。そのような方便というか説得するシナリオを沢山もっていって社内のカネと権限を持っている人を動かす。

雑誌記事やウェブなどでのマーケティング活動も重要で、通常の宣伝広告費など潤沢には使えないので、ほぼコスト無でのバイラル型マーケティングが重要になる。

OSSそのものを利用してのSIとかコンサルは直接的な売上に結びつくので分りやすい。開発者やそのOSSでの著名人がいると、安心感、信頼感が増すので営業活動も通常よりもやりやすくなる。社内での知名度なども大きな会社では重要で、社外からの引合で社内営業がそのOSSを再発見するということも少なくない。

コミュニティの人間ができることと言えば、そのOSSを利用してフィードバックをかける事くらいだが、企業に属しているのならば、OSSを社内システムないしはSIに利用し、当該OSS開発企業に有償コンサルやSIを依頼するというのも手である。

OSSは利用が進めば進むほど不具合は発見され修正されるし、機能も洗練されていくので、利用者として開発コミュニティとアライアンスを組む事は利益がある。それを企業のユーザとしてビジネスの一貫として関与することが企業人でありコミュニティの人間としてできる事かもしれない。

そのようなエコシステムをどうやって構築していくのだろうか?

簡単ではないが不可能でもないと思っている。

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先日のカーネル読書会はOLS (Ottawa Linux Symposium)の出張報告をいろいろな方にやっていただいたのだが、それぞれ味のあるお話で大変興味深かった。 TOMOYO Linuxは原田さんのプレゼンにあったように2007年2月8日にYLUGカーネル読書会で初めて発... [続きを読む]

コメント

こんにちは。
私のやっているSELinux Policy Editorも企業発OSSと位置づけられると思います。
#Developer CDにも入ってます(汗

大変興味深いテーマなのですが、publicな場では、危険すぎてあまりコメントはできません。。。

> 結局のところ企業の利益に貢献しなければOSSの開発も持続できない。利益は売上から経費を引き算して生まれるから、当該OSSを利用してSIやコンサルなりなんなりして稼ぐという方法(売上を増加させる)と、開発コストを下げる方法のあわせ技になる。

SIに結びつけるしかなさそうだと思います。
とはいえ、そのOSSを開発しているのが大企業の場合、偉い人を満足させるには、大金が動く案件に結びつかねばなりません。
SELinux Policy Editor関連で、そんなに大きな案件が取れるかというと、微妙です。
長い道のりになりそうです。その間、どうごまかす(?)かが課題です。

NTT Dataさんとか、色々公開していますが、どう生き延びているのでしょうかねぇ。
企業発のOSSについては、共通の悩みも多そうですし、この辺の人々とオフ会やりたいぐらいです。

> 企業のサポートによって開発されたOSSをどのように普及推進するかというのが今回の命題である。

命題を少しブレークダウンしたほうが良いかもしれません。普及推進するのを目的としたとき、どのようなプレイヤーがいるかから始めて、どのプレイヤーにどのように働きかけることが有効か、ということで。

> コミュニティはそれをどのように支援できるのか、できないのか、すべきなのか、すべきではないのか

議論の口火を切ります。
プレイヤーとしては、「開発者」、「プロジェクトマネージャ」、「プロジェクトが所属する社内組織」、「それ以外の社内組織」、そして「コミュニティ」があります。

私はTOMOYO Linuxプロジェクトのマネージャをしていますが、経験からその主な役割は「開発を推進し」、「プロジェクトを管理し」、「成果を事業に結びつける」、「取り組みをアピールする」に分類されるでしょう。「開発を推進」は主にコードを書くことです。「プロジェクトを管理」はプロジェクトについて社内承認を得て、継続できる状態を作るということも含みます。プロジェクト管理者は、開発者の不満に対応しながらモチベーションを維持し、会社に対してはそれを維持できるための業務を遂行し、コミュニティに対してはOSS化を含めたアクティビティを展開するという作業を同時に行います。

自分の経験から言って、上記のタスクの中でもっとも困難なのは、「プロジェクトを管理する」です。端的に言って、誰からも怒られる役割なのです(まさにYLUGでも実証されていました)。

> 双方にとってメリットのあるアライアンスの形態はどのようなものになるのかならないのか、というのが今回の問題である。

コミュニティと企業のアライアンスはあまりに漠としています。例えば上であげたような観点で分類、整理してみてはいかがでしょうか?

他のプロジェクトはわかりませんが、TOMOYO Linuxについて私が一番難しいと感じているのは、前述の「プロジェクトを管理する」です。それが何故難しいかというと、「価値を会社に対して伝え、理解してもらうこと」が困難なのです。(OSSに携わっている方であれば、この表現だけで理解いただけると思うので説明は省略します)。

OSSをメインとして取り組んでいない企業にとって、OSSは一種のミュータントです。通常のスケジュールと仕様、試験に基づくプロジェクト管理の手法が通じないので、データで示すことは困難です。

> コミュニティの人間ができることと言えば、そのOSSを利用してフィードバックをかける事くらいだが、

いわゆる「中の人」が、社内に対して取り組みの価値を理解してもらい、協力を得られるような状態を実現するというのは本来の姿かもしれませんが、それはある意味開発以上に大変な作業です。

そこにコミュニティのできることがあるのではないかと考えています。具体的には、従来の尺度では計れない企業内OSSの「価値」をフィードバックするのです。それは第3者の評価となり、企業も耳を傾けるでしょう。「価値」のフィードバックには様々な方法があります。例えばGoogleのヒット件数もその尺度ではありますが、もしそれが例えばCELinux ForumやYLUGとしての評価であり、要望として形になっていれば、プロジェクトマネージャは「感じているが自分では立証しにくい」開発の内容を会社に伝えて、コミュニティの意を受けた開発を行いやすくなります。勿論、企業としての取り組みは完全なボランティアはありませんし、それを期待すべきでもありませんが、目に見えないフィードバックが形になれば、コミュニティにとっても開発者にとってもより望ましい未来に近づけるのではないか、私はそう考えます。

最後になりますが、TOMOYO Linux(あるいは他のOSS)が良いと思ったら、それを支援したいと思ったら、まずは使ってみることが、プロジェクトメンバーに対する最大の貢献になります。使ってみて意見を伝えるということはどれほどプロジェクトのメンバーを励ますことでしょう。それは今この瞬間からもできることなのです。是非皆さん、TOMOYO Linuxを使ってみて下さい。

http://tomoyo.sourceforge.jp/

> 例えば、わたしがどこどこ社の偉い人に直談判してオープンソースを開発しているXXさんを支援してくださいなどとお願いにいけばうまくいくのか。

相手が社長であればうまくいくかもしれませんがそれは例外です。一般の企業、特に規模の大きなところでは、偉い人であってもその一存で取り組みの可否は決められないのではないかと思います。

それよりは、例えば一万人が「TOMOYO Linuxは良いね。是非これからも頑張って」という事を言っていただけば、それは企業の取り組みに影響を与える力になるかもしれないというのが先の書いた内容です。

> OSSのコア開発者がいるという事がある種の宣伝広告になるという立場で、ゼロ円で宣伝ができている、すなわち宣伝コストを低くできたといような方便も時には必要である。

OSSがメインでない企業の広報部門にとって、OSSの内容はミュータントです。各企業のホームページの構成を見ることによりその企業のOSSや個別プロジェクトに対する認識を確認できますので、お時間があれば是非試してみてください。そうすると、OSSの取り組みの宣伝効果が、蜃気楼のようなもので現実とかけ離れていることがわかります。

それを変えられるとしたらやはりコミュニティです。OSSのページへのアクセスが急増したり、「OSSなのに何故あまり更新されないのか?」という声があれば、それは変わるかもしれません。

以上あくまで一般論です。(^-^;

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